ときめきなど最初からなかった

 

穂村弘の『世界音痴』というエッセイを読んでいて、恋の三要素は〈ときめき〉〈親密さ〉〈性欲〉だと思っている、という文章があった。

そして時間の経過とともに〈親密さ〉は増大するが〈ときめき〉と〈性欲〉は減少していくから、そのせいで恋愛が長く続かない、という言説があった。twitterとかで散々擦られていそうな議題ではあるけれども。

 

でもこれを読んで、「いやときめきって何だ?」と不意に我に帰った。私はときめきという感覚を持ったことがない。恐らく一般的に言うときめきとは一目惚れのことなのかなと思っているが、容姿単体で男性に惚れたことがない。

好きな顔のタイプは勿論あるけれども(ちなみに顔が薄い韓国系の顔が好き)、好きな顔だからといって好きになることもない(お金かけてまで推そうと思うアイドルや俳優がいないのはそう言う理由な気がしてる)。今まで好きになった人ほぼ全て、関係性の中でその人の魅力に気づいたりして好きになった。

 

なので正直恋人に飽きた、とかときめかなくなった、とかそう言う話を友達にされてもなんだか納得できずにいる。むしろ長い年月をかけてお互いを沢山知っていくプロセスに幸せや愛を感じるため、恋愛の仕方が根本的に違うんだなと新たな気づきを得たりしている。

ときめきが何だかよくわからないのは、現在私が恋人にときめいている真っ最中だからで、今はそのことに気づいておらず、ときめかなくなってから私の恋愛がときめきによって支えられていたことに後から気づいたりするのだろうか。

 

そういえばこの前、顔がいいけどクズな男と付き合っている友達が、「あまり人を好きにならないから一人の男に執着してしまう」と言っていた。彼女は紛れもなく面食いなのだが、面食いにも面食いの大変さがあるんだな…と同情した。

私は比較的人を好きになりやすいし、恋愛が長続きする方だと思っているけれども、恋愛においてときめきの要素が薄いのも関係があるのではないかと思う。親友みたいな恋人が理想的なので。居心地のいい男友達を見つけるような感覚に近い。

ただ、今まで性欲については悩まなかったものの最近それが薄くなってきた実感があるため、恋人にはなんだか申し訳ないなと思う時もある(行為中に寝たりしました、ごめんなさい…)。性欲は…人によって重みが違うから、相性だよねとしか言えない。

 

ときめきって何だろう、ときめきを感じる瞬間を味わえるのが羨ましいな。

恋人に「ときめきってあると思う?」と聞いたら、「そんなものないよ」と言ってくれたので、何だかとても安心してしまった。ずっとときめきの存在に気づかないでください。

 

 

【映画感想文】海街diary 

かねてから見たかった「海街diary」を見た。2015年に上映された作品だと知って、「そんな前なの!?」と思わず驚いてしまった。そう言えば樹木希林が出てたよな・・・と見た後に思い出して、少し寂しい気持ちになったと共に、様々な作品に出ていても彼女自身の個性と役柄を両立させているところが、日本に誇る偉大な女優だったのだなと思わせる。

 

この映画の主題、というよりかは是枝監督の作品のテーマは、「血のつながらない家族」であるように思うが、本作品もそうだと思う。大筋としては血の繋がっていない異母妹と、鎌倉の三姉妹が同居する話で、三姉妹の父親と不倫していた母親の子供である中学生のすずは、さまざまな葛藤を抱える。

 

実は私も三姉妹で、思わず感情移入してしまう部分が多々あった。ただ、私は長女であるにもかかわらず、幸姉のように長女らしくない。おそらく母親が家族の中で長女の役割を果たしていて、そのおかげ(?)で私はちゃらんぽらんな自由人に育ってしまった。海街では長女の幸姉と次女のよっちゃんがたびたび喧嘩しているが、我が家では母親と次女がそれに当たる。口うるさい母親と、我が強い次女は今に至るまで毎日のように喧嘩している。末っ子はその喧嘩を傍観していて、場を和ませるようなことを言って喧嘩を仲裁する、まるで海街のちかちゃんだ。

 

そうやって文字に書き起こしてみると、私がなんとなく家族に疎外感を抱いている理由がわかってきた気がする。私は海街でいうすずちゃんの立場にいる。なんというか、私がいなくてもあの家族が成立してしまっているような気がするのだ。帰省しても、なんとなく私の居場所がない、落ち着かない感じがする。それを強く感じ始めたのは高校生の時で、父親が亡くなってから毎日のようにいがみ合っている母親と次女と、それを傍観する末っ子、その3人で過不足なく家族が出来上がっていて、私はそれから逃げるようにバンド活動にのめり込んでいたのだと思う。血が繋がっていてもこんなに疎外感を感じるのだから、血のつながりは家族の絆とは全く関係ないんじゃないかと思う。

 

その言葉を裏付けるかのように、初っ端はさまざまな負い目を抱えて馴染めていなかったすずちゃんは、映画の後半では、三姉妹一人一人と向き合うことを通じて家族になっていく。見てて、三姉妹が友達のように仲がいいのが素直に羨ましかったし、異母妹としての負い目を抱えたすずちゃんと向き合おうとする姉妹一人一人がまっすぐで、成熟していて、家族と向き合わずに逃げている私の弱さを痛感させられた。血の繋がりって、心の繋がりを保証するわけではないよね。家族の定義には様々あると思うが、「家族になろうとして初めて家族になる」、と私は思う。